【連載】「ここで働き続けたい」と思ってもらえる事務所の作り方- 事務所体制編 –
2023年4月19日
1.所内のコミュニケーション不足
職員の転職理由、退職理由として所内の人間関係がネックとなっているケースが多いということはご存知でしょうか。
何故人間関係がネックになってしまうのか。結論から言うとそれは相互に意思疎通が出来ていないからです。人間は生まれ育ってきた環境、学んできたことや積んできた経験など全く異なっています。当然同じ行動をする、或いは同じものを見たとしてもお互いに考えていること、思っていること、感じていることが異なります。家族や親友とですら喧嘩をすることがあるのですから相互に意思疎通することが如何に難しいかがわかります。このすれ違いが続いた結果、お互いにギクシャクしてしまって過ごしにくい環境になってしまい、結果的に退職や転職となってしまうケースが少なくないのです。
このコミュニケーションを取るためにはいくつかの条件が必要になってきます。
- お互いに相互理解が出来ていないという前提を理解している
- お互いにお互いのことを理解しようと思っている
- そもそもコミュニケーションの機会がある
どれも当たり前じゃないか!という内容ばかりかと思いますが、これがなかなかに難しいということも事実です。
①お互いに相互理解が出来ていないという前提を理解している
冒頭で述べた通り、人間は生まれ育った環境、学んできたこと、経験したことが異なり、考え方や感じ方が異なります。自分の言ったことが自分の思っている通りに伝わっているとは限りません。まずはそれを自分が理解し、臆病になりながら相手に自分の意図が伝わっているのかを確認しながらコミュニケーションを取る必要があります。
②お互いにお互いのことを理解しようと思っている
そもそもコミュニケーションを取る前というのは相手の心は閉じているものです。仮に知らない人とコミュニケーションを取ろうとすると警戒心が働くのは当然ですし、少し過剰な場合はそれが『関わりたくない』『声をかけられたくない』と思う、または思われる場合もあると思います。お互いがこの状態では当然前には進みません。相手から動いて欲しい、変わって欲しいと願ったとしても相手は自分の思い通りには動いてはくれません。まず自分が変わらなければ相手も変わってはくれないのです。お互いが歩み寄るにはまず自分から歩み寄ろうとしなければ相手も歩み寄ってはくれません。それを理解して自分から歩み寄り、お互いが歩み寄り合える場を整えていきましょう。
③そもそもコミュニケーションの機会がある
これは会計事務所においては特に起こりがちかもしれません。会計事務所の歴史的な特徴として、1クライアント1担当制という制度があります。1人、或いは1社のクライアントに対して1から10まですべて1人の担当者で完結するという形です。昨今は分業体制も増えてはきましたが、まだまだこの形になっているケースは少なくありません。ましてや今の時代はテレワークや在宅勤務も増え、更にコミュニケーションを取る機会が減っている方も増えています。コミュニケーション不足を課題と感じている人はもちろん、『これまで通り』のままで来ているという方もコミュニケーションを意図的に且つ密に取っていく必要性が高まっています。コミュニケーションを取らなければいけないからといって、長時間を要する必要はありません。むしろ重要なのは接点を増やすことです。『月に1度2時間よりも1日5分のコミュニケーションの方が質が高い』とまで言われることがあります。
いかがでしたでしょうか。所内の人間関係の円滑化は退職防止というネガティブな面だけでなく、むしろ業務の円滑化にも繋がります。是非コミュニケーションの機会を意図的に増やし、相手のことを知るためのコミュニケーションを最大化させ、相互理解に繋げてみてください。
2.仕事内容に変化がなくマンネリ
国内・国外問わず旅行から帰った時に「やっぱり家が一番だね!」という言葉を聞いた。或いは、言った覚えはありませんか?
今回のテーマは、「マンネリ」ですが、旅行帰りに発する言葉が表すように「マンネリ」は実は人にとって心地よく落ち着くものです。
それは、会計事務所のスタッフにとっても同じことで、
- 担当変更がない
- 一年間の業務の流れ、やることが決まっている
- 連絡を取る顧問先の窓口も決まっている
などなど、ある程度キャリアを重ねたスタッフがマンネリ化する要素はたくさんある職場であり、改善や目的がなければ、マンネリ化する要素が非常に多い仕事であると言えます。
人が心地よく落ち着く環境であるマンネリですが、一方で
- 考えずに仕事をするようになる。
- スキルの幅が広がらない。
という状況に陥り、スキルが磨かれず、日々を無駄に過ごしている感覚になり、やがてキャリアに自信を持てなくなり会社を辞めていくという悪循環に陥るケースも多く、無視できないデメリットもあります。
そこで、お勧めしたいのは学習塾等の現場でも活かされている「7:3の法則」です。
新しいことばかりだとかなりのストレスになりますので、やり慣れた仕事を7、新しい仕事を3の割合で行うことで、マンネリ化することなく、成長も実感できます。
やる気のある人がマンネリ化による退職を選ばないようにするためにも是非、3割の新しい仕事をやれるようにしてください。
3.事務所の成長を感じない、将来性を感じない
よく、会社は成長し続けなければならない。という言葉を耳にしますが、会計事務所も成長し続けなければならないのか?このようなことを何度か考えたことがあり、色々な会計事務所に伺い、自分なりに会計事務所の成長の意義を考えてみました。
成長していない会計事務所は、
- 新しい人が入ってこない
- 何年も同じ担当先を担当している
- 役割も変わらない
- 給料もあまり変わらない
- 提供できるサービスも変わらない
という状態でした。
一方、成長している会計事務所は、成長していない会計事務所の逆で
- 新しい人が毎年入ってくる
- 担当先も自分の成長や事務所の成長に併せて変わっていく
- 仕事ができるようになれば、役割も管理者等に変わっていく
- 役職に応じて給料もあがっていく
- 部門等ができ、専門的なサービスを提供できるようになる
という会計事務所が多かったです。
このように見ていく限り、一般企業と会計事務所で違いはなく会計事務所も成長していく方が顧問先やスタッフにとって良いと言えるのではないかと感じました。
加えてもう一つ、事務所を成長させ新しい人を入れた方が良いと思う理由があります。
それは、同じ人員でやっていると1年ごとに1歳高齢化が進んでいくということです。早めに手を打てれば良いですが、事務所の高齢化があまりに進んでしまうと若い人が入社しづらく働きにくい職場となってしまい更に会計事務所の高齢化が進みます。
そうなってしまうと、若い企業の価値観やビジネスモデルについていくことが難しくなり、徐々に顧問先が減っていくことになります。
そして、高齢化し徐々に顧問先が減る状況になってしまっては、もう顧問先もスタッフも将来性を感じることができなくなってしまいます。
企業が続く限り、良いサービスを提供したい。そのようにお考えの先生は、若い人や新しい人を入れられる位の成長を目指してみてはいかがでしょうか?
4.教育体制がない
長引く超人手不足により、業界経験者をあきらめて未経験者を採用する事務所が増加傾向にあります。そのため、未経験者を育てることが事務所成長のカギになってきます。
しかしながら、長きにわたり経験者限定採用をしてきた事務所にとっては、体系的な教育体制そのものがないということもよくお聞きします。そのため先輩職員を教育担当者として付けているケースが目立ちます。これ自体は全く問題ないのですが、付く先輩によって指導内容や指導レベルにばらつきがあるため、指導を受ける新人の成長にもバラつきが生まれます。また、先輩が忙しくしているとなかなか相談しにくいという話も聞きます。
成長欲求のある職員は事務所にとっても貴重ですが、一方でそういった職員の成長欲求を満たす教育体制がなければ、退職されるリスクがあります。となると事務所の成長にもストップが掛かってしまいかねません。
教育体制の構築は簡単にできるものではありませんが、さりとて重要な経営課題として本気で取り組まなければなりません。全てを自前でまかなうことが難しければ業務の基本が学べる外部研修への参加や教育ツールの活用から始めてもいいでしょう。
その際には受講を本人の裁量に任せるのではなく、業務の一環として期日を決めて受講を必須とすることがポイントになります。 最終的には顧問先へのサービスレベルに影響する話ですので、事務所品質を維持するためにも、「教育は強制する」ことが重要です。
この記事の監修
野村治史
株式会社名南経営ソリューションズ
カスタマーサクセスグループ・マネージャー
東京事務所所長