【連載】「ここで働き続けたい」と思ってもらえる事務所の作り方- ワークライフバランス編 –
2023年5月19日
1.繁忙期対策が取られていない(残業対応を前提としている)
会計事務所の繁忙期と言えば、年末調整業務が12月頃からスタートして、その後の確定申告業務、さらには3月決算先の申告が終わる5月末までの半年間もあります。
そして繁忙期を残業対応、休日出勤で対応している事務所も数多く見られます。
繁忙期間中は大変な思いをしながら業務を行っているため、「来年こそはもっと効率的にやるぞ!」と多くの方が思う一方で、いざ繁忙期が過ぎると、その気持ちもどこへやら。まさに喉元過ぎれば熱さを忘れるとなってしまい、同じ繰り返しとなっている事務所も少なくありません。
繁忙期が終わって一息つける6月(記憶も新鮮)のうちに、振り返りミーティングを行い、全員で課題を洗い出して対策まで決めておかなければ、かなりの確率で同じ状況を繰り返します。
では、そもそもなぜ繁忙期に残業対応や休日出勤が発生してしまうのでしょうか?
事務所によって理由は様々ですが、いくつか共通項があります。
①動き出しが遅い
期限がギリギリになりがちな事務所では年末調整業務の着手が12月からとなっています。効率的な運営をしている事務所では10月から動き出し、11月には資料回収を終えています。動き出しが遅くなればなるほど、申告期限はきまっているわけですから残業対応や休日出勤が必要になります。確定申告だけ行っている年一先の顧問先についても、処理をまとめて確定申告時期にしようとすると同じ結果になります。
例えば資料は3か月に1度は回収し、閑散期に入力をしておけばピークをずらすことができます。
②申告期限=業務完了期限としている
「申告期限に間に合えばいい」という意識が遅れの原因になりがちです。申告期限とは別に事務所としての業務完了期限を設けることが重要です。個人任せにしてしまうと、早い人もいれば遅い人も出てきます。バラつきを押さえるためにも、事務所としての業務完了期限を定め、必ず守らせる(なし崩しにさせない)ことで早期完了に近づきます。
③業務進捗と資料回収が個人任せ
②と似ていますが、業務進捗状況、そして資料回収状況が事務所で把握されておらず、個人の裁量に任せられていると、やはり遅れがちとなり残業対応するはめになります。②で定めた事務所としての業務完了期限を最終ゴールとして、ゴールに辿り着くまでの業務ステップを明確にし、どのステップまで進んでいるのかを事務所全体で見える化して管理する必要があります。
また、とても重要なポイントとして資料回収があります。業務に必要な資料が事務所で決めた期限までに抜け漏れなく回収できたとすれば、実は早く終わります。しかしながら実際には資料回収に苦戦し、その回収が遅れるため期限ギリギリになっていることがほとんどです。
ではなぜ資料回収に苦戦するのかと言うと、
- 早いタイミングで顧問先に回収資料を案内できていない
- 案内方法が職員によってバラバラ
- 資料回収の進捗状況を担当者しか把握していない
上記項目のうちのいずれか、あるいは全てが理由でしょう。
以上①②③を改善することができれば、繁忙期の残業時間や休日出勤をぐんと抑えることができるだけでなく、早期完了させることができます。
2.記帳代行が多い、給与代行が多い
記帳代行や給与代行が多くなりすぎると、残業時間や休日出勤が多くなりがちです。
そうなると、間違いなく職員の退職率は上がります。代行業務を戦略的に獲得している事務所の場合は、仕組みをしっかり整えているケースが多いため、代行業務を請けても負担が増えない工夫をされていますが、そうではなく、本当は請けたくないけど顧問先からお願いされてしかたなく請けている場合はマンパワーに頼っているケースが多いようです。
一番の解決方法は言わずもがな「自計化」していただくことです。昔と違い会計ソフトの進化によって仕訳の自動化が進んでいます。ネットバンキングやクレジットカードの取引情報を取り込むことで自動で仕訳が生成されますし、現金取引についても会計ソフトの学習機能が仕訳をサポートしてくれるため、昔よりもずっと自計化しやすい環境が整っています。
顧問先が年配でパソコンが使えないという話もありますが、それならそれで現金出納帳や日記帳だけでも付けていただく、あるいは領収証の整理だけは必ずやっていただくなど、顧問先のできる範囲で業務負担をお願いした方がいいでしょう。それも難しいようであれば、タイムチャージの考え方で掛かっている時間に相当する適正な料金をいただくことが重要です。
既に事務所の運営費を賄うだけの収入が得られているのであれば、今後の新規契約先については「絶対に代行は請けない」、「現金出納帳は必ず書いてもらう」、「代行なら掛かる工数に見合う報酬をいただく」など、明確な基準を設けてそれらを徹底することこそが改善策になります。
3.担当件数が多すぎる・業務量が多すぎる
職員の担当件数・業務量は適切でしょうか。「職員にはたくさんの担当件数を持ってもらっている」「かなり多くの業務量を任せてしまっている」そんな事務所様は要注意です。
たくさんの業務を抱えることで業務時間が増えてしまい、仕事への不満となります。最終的には仕事への不満が溜まり、退職へとつながります。
また1人でも退職してしまうと一気に組織が崩壊する可能性があります。職員全員が業務をたくさん抱えている状況で1人が退職すると、その業務がほかの人に割り振られます。そうなると別の職員の業務量が増加してまた退職。そういったことが繰り返されるかもしれません。
そのような状況を防ぐために、職員の業務量が多すぎるといった事務所は最初に職員の業務量を把握することが重要です。そのためには各職員のスケジュールを把握し、業務の進捗状況を共有する3つの取り組みが必要です。
①職員同士でのスケジュールの共有
各職員同士の予定を常に共有しておくことで誰が業務を抱えすぎているのか、誰が業務に余裕があるのか、日々の業務状況を把握します。
②業務の進捗状況の所内共有
会計事務所様の業務は常に期日に追われています。職員に割り振っていても期日までに終わらなければ意味がありません。決算業務やスポット業務などを業務フローごとに分割し、進捗状況をリアルタイムで把握することで負担を抱えている職員を見つけ出します。
③誰がどの業務にどれだけ時間をかけているのかの分析
職員毎にどの顧問先に対してどの業務でどのくらい時間をかけているのかを記録し集計することで詳細な所内の状況をチェックします。
以上のような取り組みを行うことが職員の業務量が多すぎる事務所にとって、重要な第一歩となります。事務所の現状を把握し、改善点を抽出し、業務の効率化につながる取り組みを積極的に取り入れましょう!
4.業務標準化が図れておらず非効率
会計事務所にお伺いしていると、同じ業務に対して各職員が独自の方法で行っているケースをお見受けすることがあります。もちろん、1人1人が業務に工夫を凝らすこと自体は素晴らしいことです。しかし、その工夫も標準化されなければ、却って事務所全体の効率性を下げることにもなりかねません。例えば、決算の検算業務について考えてみても、業務の進め方が標準化されている事務所と、十人十色のやり方がある事務所では効率性に大きな差が出るでしょう。
その結果、業務標準化がされていない事務所では職員の労働時間が増えていき、最終的には職員が退職に至る、このような事例もよくお聞きします。
一昔前ですと、長時間労働により対応することができましたが、「働き方改革」「ワークライフバランス」が叫ばれる昨今、職員定着率UPのためにも業務標準化は避けられません。
では、具体的に何をすればいいのでしょうか?
- 業務ごとのチェックリストを作成する
- 業務のワークフローを整える
- ノウハウを事務所全体で共有できる仕組みを作る・・・ 等々
改善方法は事務所の状況によって異なります。挙げ始めればキリがないのですが、改善方法を考えていただく前に、是非考えていただきたいことがあります。それは「今行っている業務そのものを、なくすことはできないか?」ということです。
具体的には、「この業務をなくしたら、どんなことが起こるだろうか?」と考えてみてください。考えた結果が「何も起こらない」でしたら、その業務はなくしても問題ないと言えます。むしろ「何も起こらない=事務所において何の利益も生み出していないのに、時間だけを消費している」ということですから、積極的になくすべきであるとも言えます。
効率性・職員定着率UPのために、各自の持っているノウハウを共有し、事務所にとって最適な業務標準化を進めてみてはいかがでしょうか。
5.税理士試験の勉強時間が確保できない
こちらも退職理由の上位に入ってくる内容です。そして税理士試験にチャレンジしている職員ほど意識の高い方が多く、戦力になっているように思います。そういった職員にとっては、生活のための収入が重要な一方で、同じくらい税理士になることが重要だと考えています。
そのための勉強時間が取れないということは精神的な負担になります。また、年齢が上がれば上がるほど、焦りも募ります。
一般的に「出来る人に仕事が集まる」傾向がありますので、その方が税理士を目指しているのなら、仕事量を調整してあげないと最悪のケースは退職という結果になります。
そのためにも職員の業務量や労働時間を見える化し、業務改善による効率化や業務量のコントロールを行うことが大切です。
税理士業界では取り組みが遅れがちですが、優秀な人材の離職を防ぐためにも労務管理、業務量管理は重要な管理項目です。
6.働き方の柔軟性がない(テレワーク、時短、フレックス勤務)
とある地方の会計事務所の話です。2020年7月から急に事務所の求人への応募が増えてきたとのこと。中には、今までは考えられなかったような素晴らしい経歴を持った人からも応募があったそうです。不思議に思った所長先生が理由を尋ねてみると「今勤めている会計事務所が、テレワークへの対応をしなかったから」とのことでした。
もちろん、テレワークへの対応の有無だけが転職理由ではないでしょうが、テレワークへの対応姿勢が就職・転職先を考える要因の1つになりつつあることは間違いありません。一昔前ですとテレワークに対応できていることは大きなアドバンテージでした。しかし、テレワークは最早「できて当たり前のこと」という認識になりつつあるのかもしれません。そして、その認識はこれから社会人になる若い世代ほどより顕著なものになるでしょう。
また、テレワークに限らずフレックス、時短勤務等を実施できる環境を整えることで、育児や介護を理由にどうしても出社できない優秀な人材を雇用できるメリットもあります。
これらを実現するためには、「就業規則の見直し(フレックス、時短勤務への対応)」や「テレワークに備えてシステムの導入(例 オンライン面談システム、コミュニケーションツール)」を実施する必要があります。 どれも一朝一夕で実現できることではありませんが、だからこそ早めに取り組む必要があると言えるでしょう。優秀な人材の確保・定着のために、柔軟な働き方ができる体制を整えることをオススメします。
この記事の監修
野村治史
株式会社名南経営ソリューションズ
カスタマーサクセスグループ・マネージャー
東京事務所所長